国内ロケ

特殊救難隊の密着取材エピソード

もうだいぶ前の事になるが、特殊救難隊を取材した事がある

今までテレビの取材を通して数多くの仕事人を見てきたが

彼らほど優秀で最上級の敬意を抱いた人間はいない

それはもはや畏怖の念と言ってもいい

頭脳明晰にして運動能力にも長けた海難救助の超スペシャリストたち

彼らを密着取材した時のエピソードをここに紹介し

広くその存在を知ってもらえたらと思う

 




 

特殊救難隊とは?

悪天候の中に並べられたダイビング用空気ボンベ

海上保安庁、特殊救難隊

東京・羽田にある海上保安庁の施設の一角に彼らの基地がある

救助が難しい危険な海難事故に対応するために組織されたスペシャリスト集団で

要請があれば、専用のジェット機もしくは大型のヘリで

日本の全ての海上へ急行する

通称「特救」と呼ばれる彼らはいったい何者なのか

ドラマや映画で「海猿」を見た事があるなら分かりやすい

海猿は11の管区からなる海上保安庁の潜水士たちの事で

海上で起きた海難事故に対応している

その中でももっとも優秀な潜水士たちが集まったのが特救隊なのだ

選ばれし数十名の猛者たち、海上保安庁のトップエリート

毎年、海上保安庁各管区から選抜された潜水士たちによって

行われる競技会がある

ここで優秀な成績を残した者のみが特救隊へと配属される

組織は6名で編成され、隊長以下、副隊長と隊員で1隊となる

隊は合計6隊、24時間をローテーションで交代し

当直の隊にもし大がかりな出動がかかれば

次に控えた隊がすぐ対応できるようきっちりと組織化されている

よって、交代要員となる隊員たちの飲酒は厳禁

規律は一般企業とは違って厳しく統制されているが

海難救助のエリートとしてここまで上り詰めてきた彼らにとって

それはたやすくごくごく当たり前の事

規律に不満を漏らす隊員など一人もいない

たった一人の規律違反が尊い人命にかかわってくるのだから・・

 




 

驚がくの朝練

「ヨーイ・・・ピーー!」っと、ホイッスルが鳴る

当直の隊が行う朝のいつものメニュー・・50メートル走

たかがと思うかもしれないが、彼らの50メートル走は普通じゃない

なんと!逆立ちして2本の腕だけで「走る」のだ

これしきの事ができないでは人命など救助できるはずがない

運動能力の維持は過酷な海が舞台となる彼らにとって必然なのだ

メニューはこれだけにとどまらず、相棒をおんぶして走るものや

奥行2センチもないブロック塀の上辺の突き出た部分に

指の第一関節だけでぶら下がって横移動するものなど

どれも特救隊ならではの驚きのものばかり

これが日常の朝の体操・・

が、彼らのずば抜けた能力は肉体だけではなかった

 

 

要求される知識と頭脳

特救隊の隊員たちには冷静で優秀な頭脳も要求される

みな危険物などに関する取扱いや

医療の知識にも長けていなければならない

海では船舶火災なども発生する

化学物質を運搬する船が火災を起こした場合、

その積み荷がなんなのかで消火方法も変わるのため

化学を理解しておく事も彼らには必須の科目となる

救命救急も水中での作業になるため、これまた特殊なスキルが要求される

水の中でパニックになった要救助者へ話しかける会話術ももちろん必要

だが、必要なスキルはこれだけではない

船には様々なタイプがあり大きさも様々

用途が違えば船の作りも変わるのでそれらの内部構造などについても学んでいる

海難に関する事は全て頭に叩き込んでおかなくてはならないのだ

 

 

選ばれた人間だけに許された降下技術

ホイスト降下訓練中の海上保安庁ヘリと救難スタッフ

特殊な能力で特筆すべきはヘリからの降下技術にある

通常、ヘリから降下するには、ホイスト降下という

モーターで駆動するウインチによって行われるのだが

これだと、降下スピードを機械にゆだねる事になるため、

波で揺れる船体などに着地するのが困難になる

着地のタイミングは一瞬しかない

その一瞬に合わせるには自身でスピードをコントロールして

降下する方法=リペリング降下という方法が最適となる

リペリング降下というのは、自身の体にロープを巻き付けて

ロープをつかむ握力のみでスピードをコントロールして降りる方法なのだが

これがとても危険で難しく、高度な訓練を何度も積み重ねないと身に着かない

よって、リペリング降下は通常は禁止されており、

許されているのは自衛隊の一部と特救隊だけなのだそうだ

これだけでもいかに彼らが優秀か、お分かりいただけるだろう

 

マンガに実名で登場した鬼隊長

海上防災基地

横浜にある海上保安庁のこの訓練施設にA水槽というプールがある

巨大な波を人工的に作り出す事を目的に作られ

そのうねりは2階建ての建物にも匹敵するほどの落差がある

普通の人間がここで揺さぶられたら

目が回って泳ぐことすらできなくなってしまうだろう

ダイビング用空気ボンベ

「オラオラァ~!!何もたもたやってんだよーーーっ!」

「さっさと上がってこねえとみんな助けられねえぞーーー!」

水位が激しく上下する波の中で10キロ以上もある酸素ボンベ2本も背負わされ

自力でプールから這い上がる訓練を受けているのは

特救隊に入ってきたばかりの新人隊員たち

ひよっことはいえ、各管区から生え抜きで抜擢された潜水士たちばかりで

相当な運動能力を持っている事は間違いない

その彼らがこのモンスタープールであえいでいた

新人たちは特救隊メンバーに選ばれただけで自信過剰になる者が多いという

ここで、プール際から新人たちの鼻っぱしらをへし折って檄を飛ばしているのは

特救隊を描いたマンガ「トッキュー!」に実名で登場している島本隊長

身長は170センチほどで、隊員の中では小柄な部類なのだが

その技術たるや、もはや神の領域

彼がこのプールに入るといとも簡単に上がってくる

新人たちはこんな鬼隊長にしごかれていっぱしに育っていくのだ

人の命・自らの命を守るために

 


 

 

特救隊ヘリのパイロット

海上保安庁ヘリのコクピット付近

出動要請が入ると、ブリーフィングルームに隊員たちが集まってくる

ここで出動が可能かを決めるのがヘリのパイロット

現地の天候を見極めて判断を下す

彼らも同じ基地内で待機しているのだが

通常の旅客パイロットと違い、特殊な操縦スキルが要求される

不規則な風を読み、定位置にホバリングさせる技術がなければ

リペリング降下も生かせなくなる

一度だけ、取材中に同乗を許可され現場まで同行した事があったが

ポイントへのアプローチは見事なものだった

要救助者を確認し、隊員と無線でやりとりしながら的確にその真上へと

巨大なプロペラのついた鉄の塊を持っていく

機体が風であおられると体で感じて操縦桿を動かし補正していた

パイロットもまた救難のスペシャリストなのだ

 

彼らの素顔

ダイビング用空気ボンベのレギュレーター

隊員たちはみな若い

年長となる隊長でも30歳前後で、隊員たちは22歳~26歳前後

どの隊員も精悍な容貌をもったイケメンで揃っている

そんな彼らだからモテるのも当たり前で、ほぼ全員が家庭を持っていた

なぜみんな早く結婚したのか、その理由を聞いてみると、

「落ち着いて過ごせる家庭という場が欲しい」

というのが一致した答えだった

過酷な訓練と実務を続けていくには「心の支え」も重要なのだ

妻を持ち、子供をもうけてこそ「必ず生きて戻る」という

強い気持ちが生まれる

彼らもまた、人の子

その人間らしさが人命を尊び、救う原動力になるのだと知らされた

 

あとがき

お読みいただきありがとうございました

このエピソードを読んで、文章に違和感を持った人もいたでしょうね

今回はいつもの記事とはタッチを変えて書きました

理由は、正確な事実だけを知ってほしかったのと

彼らに敬意を表したかったから

命を扱う記事なだけに、軽い文章にはしたくありませんでした

また、実際の生の救助活動について期待された方はごめんなさいです

事故現場に同行するにはヘリの定員数など様々な条件があるんです

取材中、一度だけ同行を許可された事がありましたが、

その時は要救助者が1名で軽度なものでした

重大な事故がなかった事はむしろよかったと思ってます

ただ、彼らが信じられないような過酷な状況の中で

多くの人命を救助し、殊勲を残してきた事も事実です

 

最後に、こんなエピソードを・・

取材最後の日、運動能力を競う障害レース番組の話になり

「こんなに鍛錬してたらサ〇ケで優勝しちゃうんじゃないの?」

と水をむけたら、隊員一同みんな「出たい!」とのリアクション

相当自身があるみたいで、サ〇ケにチャレンジする話は

日頃からよく話してるようです

けれども、万が一って事もあり

もし途中で脱落したら特救の名を汚す事になるので

出たいんだけど、絶対出られないんだそうです(笑)

そこで、とある隊長がこんな事を言っていました

「100%ってないからね~」・・・

あると思ってはいけない

100がないからこそ、常に慎重さを忘れない

人命の尊さを知っているからこそ出たこの言葉

救助作業というのは陸海問わず、自分の命にも関わってくる

そこに身を投じ、懸命な活動をしている彼らに

最上級の意を持って「敬礼!!」です

 




 

 

 

 

 

 

 

  • この記事を書いた人

晴れのち晴れ

在京キー局カメラマン/技術アドバイザー  ドキュメンタリー、バラエティー、各分野で活躍  手がけた著名番組多数  30年に及ぶ豊富な経験から映像ライフを楽しむ知識やアイディア、  海外ロケのスナップ紀行などを 紹介しています

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